積み重なった特許明細書が、光るネットワーク状のデータへと変換されていくイメージ

AIに関する技術は、指数関数的ともいえる勢いで発展しています。新しいモデルやサービスが相次いで発表され、先週まで最新だった情報が、今週にはすでに古くなっていることも珍しくありません。

こうした技術開発の加速は、特許の動向にも表れています。世界知的所有権機関(WIPO)は2026年7月、生成AIに関する最新の特許統計をまとめたレポートを発表しました。

2年間で、それ以前の10年間を上回る

WIPOによると、生成AIに関する公開特許ファミリー数は、2023年の約14,000件から、2025年には37,800件超へ増加しました。

2024年と2025年の2年間に公開された生成AI関連の特許ファミリーは合計56,000件を超え、2014年から2023年までの10年間の累計を上回っています。また、AI関連の公開特許ファミリー全体に占める生成AIの割合も、2023年の6.1%から2025年には8.7%へ上昇しました。

技術別では、大規模言語モデル(LLM)に関する特許ファミリーが急増しています。2025年には約14,100件が公開され、画像生成などで利用されてきた敵対的生成ネットワーク(GAN)関連の約5,200件を大きく上回りました。

日本は主要国で最も高い伸び率

国別では、中国が依然として圧倒的な件数を占めています。中国の発明者による生成AI関連の公開特許ファミリーは、2024年と2025年の2年間だけで43,000件を超えました。

一方、日本は2023年から2025年までの年平均成長率が210%となり、主要な発明者所在国の中で最も高い伸び率を記録しています。国別順位も4位から3位へ上昇しました。

企業別では、ソフトバンクが約3,000件の生成AI関連特許ファミリーを保有し、WIPOの集計で首位となっています。その大部分は2023年に出願され、2025年に公開されたものです。

ただし、日本が件数でも世界をリードしているという意味ではありません。絶対数では中国が大きく先行しており、日本について注目されるのは、直近の伸びの大きさです。

OpenAIの特許が少ないのはなぜか

興味深いのは、生成AIを代表する企業の一つであるOpenAIの特許ポートフォリオが、他の主要企業と比べて小さいことです。

WIPOによると、OpenAIの特許出願は2025年末時点で世界全体でも35件にとどまっています。しかし、この数字をもって、OpenAIの技術開発が他社より遅れていると判断することはできません。

WIPOは、OpenAIが基盤となるモデル技術を幅広く特許化するよりも、営業秘密と開発速度を主な競争優位とし、特許を補完的に利用している可能性を指摘しています。同社の特許は、マルチモーダルインターフェース、コード生成、画像生成、テキスト編集など、比較的具体的な製品レベルの技術に重点を置いています。

特許の件数だけでは、企業の技術力や開発力をそのまま比較できないということです。技術を公開して特許権を取得する企業もあれば、技術を営業秘密として管理し、他社が追いつく前に次の技術を開発することによって競争上の優位性を維持しようとする企業もあります。

AI開発の競争軸も変わりつつある

生成AIをめぐる競争では、これまで、より高性能で大規模なモデルを開発することに注目が集まってきました。しかし、最近では、性能だけでなく、速度、導入コスト、消費する計算リソース、用途ごとの使いやすさなども重要な競争要素となっています。

実際に、直近に発表されたAnthropicの「Claude Opus 5」も、最上位モデルに近い性能を、より低いコストで提供することを特徴として掲げています。また、一つの巨大なモデルですべてを処理するのではなく、用途に応じて高速・低価格のモデルや特定分野に特化したモデルを使い分ける動きも見られます。

さらに、複数のモデルを組み合わせて利用する「オーケストレーション」と呼ばれる設計思想も広がっています。例えば、Sakana AIの「Sakana Fugu」は、問題に応じて複数のモデルを動的に協調させるアプローチの一例です。

WIPOのレポートも、推論処理の効率化やモデル最適化、AIエージェントといった領域を、今後特許活動が拡大する可能性のある分野として挙げています。

特許統計から見えるもの

特許は出願ルートや手続きによって多少異なりますが、出願から公開までに一定のラグが発生し、通常は公開までに約18か月を要します。そのため、今回の統計に表れているのは、現在の生成AI市場そのものではなく、主に数年前に始まった研究開発と投資の結果です。

それでも、2024年と2025年の公開件数が、それ以前の10年間の累計を上回ったことは、生成AIをめぐる技術開発が一時的な流行ではなく、すでに大規模な知財形成の段階に入っていることを示しています。

今後、現在進んでいるAIエージェント、推論モデル、軽量化、低コスト化などの開発成果が、時間差を伴って特許統計に現れてくることになります。生成AIの技術だけでなく、それを取り巻く知財戦略の変化にも、引き続き注目する必要がありそうです。

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