memoQの新バージョン12.4.36が、2026年7月16日にリリースされました。このバージョンから、「Lara」という翻訳AIをプラグインとして利用できるようになりました。

ただし現時点では、memoQの標準のMTプラグイン一覧にLaraは表示されません。Laraのプラグインがまだ memoQ の Marketplace で署名・公開されていないためで、利用するには Lara(Translated社)のサイトからインストーラーを入手し、手動で導入する必要があります。導入時に「署名されていないプラグイン」という警告が表示されますが、これは Marketplace 以外の経路で配布されるプラグインでは通常出るもので、「はい」を選んで進めます。導入後、MTプラグインの一覧に「Lara Translate」が現れます。署名済みの Marketplace 版は、追って提供される予定とされています。

memoQではすでに数多くのMTエンジンを利用できます。Laraは、その一つであるModernMTを提供してきたイタリアのTranslated社が、ModernMTの後継として開発した新しい翻訳エンジンです。同社は、Laraを翻訳に特化して設計されたLLM(大規模言語モデル)と位置づけています。文書全体の文脈を踏まえた翻訳と、利用者の翻訳資産や確定訳に応じたリアルタイムの適応を特徴としています。

「適応型」や「ドメイン特化型」と呼ばれるAI・MTエンジンは、これまでにもありました。ModernMTも、文書全体のコンテキストを考慮する機能と、翻訳者による修正をリアルタイムで反映する機能を備えていました。Laraは、こうした適応技術を引き継ぎ、翻訳に特化したLLMと組み合わせたものといえます。

memoQ上ではセグメント単位で作業しますが、Laraは訳を生成する際に、文書全体の原文コンテキストを参照します。また、Self-Learning MTを有効にし、Lara側の翻訳メモリを更新対象に設定すると、memoQで確定したセグメントがLaraに送られ、接続された翻訳メモリに即時反映されます。以後のセグメントでは、その内容を踏まえた訳が提示されるようになります。

非常に魅力的な仕組みです。一方で、利用するモードによっては、翻訳内容が外部サービスに保存され、モデルの改善に利用される可能性があります。Laraの標準のLearning Modeでは、原文、訳文、文脈情報が保存され、Laraのモデル改善に利用される場合があるとされています。

なお、利用者が登録した翻訳メモリや用語集そのものが、共有モデルの独立した学習データとして直接使用されるわけではないと説明されています。ただし、Learning Modeで生成された訳文にはこれらの内容が反映されることがあり、その訳文がモデル改善に利用される可能性はあります。

弊社のメイン事業である特許翻訳でも、データの取り扱いには十分な注意が必要です。弊社で扱う案件の多くはPCT案件であり、翻訳する時点ではすでに国際公開され、翻訳対象となる発明の内容自体が公開情報となっている場合が大半です。

ただし、公開済みの案件であっても、依頼の事実、顧客情報、翻訳対象範囲、未公開の補正内容や追記事項まで公開情報になるわけではありません。また、秘密保持契約や顧客ごとのセキュリティールールは、公開の有無とは別の問題です。

中には直接出願など、翻訳する時点ではまだ公開されていない案件もあります。こうした案件を扱う場合には、顧客との契約やセキュリティールールを確認し、翻訳内容が保存または学習に利用される外部AI・MTサービスを使用してよいか、慎重に判断する必要があります。

Laraには、翻訳内容を保持せず、モデルの学習にも利用しない「Incognitoモード」が用意されています。Incognitoモードでも、既存の翻訳メモリや用語集を翻訳時の参考情報として利用できます。ただし、その翻訳リクエスト自体は翻訳メモリの更新やモデル改善に反映されないため、作業中の確定訳を継続的な適応に利用することはできません。

memoQプラグイン経由で利用する場合には、Incognitoモードがどの設定や契約によって適用されるのかも、導入前に確認しておく必要があります。

AIやMTの選択肢が増えたことは、現場で作業する私たちにとって、とても喜ばしいことです。同時に、それぞれのサービスがどのような仕組みで動き、入力したデータをどのように扱うのかを確認したうえで選ぶことが、これまで以上に重要になっています。

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